鹿児島県主催「食品関連製造業 商品開発・販路開拓の成果発表会」レポート

株式会社ジーブリッジでは、鹿児島県主催・令和6年度「食品関連製造業リーディングカンパニー創出支援事業(経営力ステップアップ支援)」を受託し、鹿児島県の食品関連製造業を牽引する企業の創出に向け、専門家による伴走型支援により商品開発や販路開拓、営業力強化を総合的に支援してまいりました。

2025年3月14日、事業終了前に鹿児島県庁18階・かごゆいテラスにて開催された「成果発表会」のなかから、参加された事業者4社の取り組み紹介を中心としたレポートをお届けします。

〇目 次

1:事業プログラムの構成とコース設定
2:取組事例の紹介①~株式会社横福(鹿児島市・霧島市)
3:取組事例の紹介②~有限会社菓子処渡辺(中種子町)
4:取組事例の紹介③~株式会社メセナ食彩センター(曽於市)
5:取組事例の紹介④~有限会社エスランドル(南九州市)
6:ウチの商品開発~ヒントとなるやり方
7:商談成果サマリー


〇ご挨拶
最初に主催者である鹿児島県商工労働水産部 産業立地課 参事 松永一彦氏から「素晴らしい商品ができているな、というのが率直な印象。本事業の担当から事業者さんがイキイキしている、前向きとの報告を受けていました。」とご挨拶をいただきました。

〇事業紹介
続いて事業企画・運営を担当した株式会社ジーブリッジ 代表取締役 安原弘勝から事業プログラムと成果をご紹介、「3月で事業は終わるが、地域商社であるジーブリッジとしては、今後も継続的にサポートして商品を売っていきたい」とお伝えしました。


1:事業プログラムの構成とコース設定


※各社の取り組みは、事業者からの発表に続いてインタビュー形式でさらに深い内容を伺い、最後に商品開発の方法について伺う構成となっています。


2:取組事例の紹介①~㈱横福(鹿児島市・霧島市)

株式会社横福 代表取締役 横山薫氏

【事例発表】
お客様の声から「すぐ食べられる商品」を作ってみたものの…

株式会社横福の横山薫です。にんにくを生産し、そのにんにくで加工品も作って販売している会社です。今年で9年目になります。

店頭販売の時、お客様から「すぐ食べられるもの」「調理がいらないものが欲しい」と言われていて、手に取りやすく、お客様が「欲しい!」と思う商品に作り替えたいというのが参加した理由です。

対象商品は「にーぴなマニア」。にんにくとピーナツのおつまみスナックです。店頭販売では「おいしいね」と買ってくれますが、お店では売れない…。「おいしいけど売れないよね」と社員一同が思う商品でした。原価計算もきちんとできているか不安がありました。

お客様視点で商品を見直し、包材・デザインなど一新

ブラッシュアップでは、「この商品が何かわからない」ことが課題だと。そこで、商品の中身が見えてフック掛けにできる袋に変更し、にんにくのパワーと桜島の力強さを合わせて「マグマニンニク」のネーミングに変更。さらに原材料は鹿児島産であることを伝え、商品特長が伝わるパッケージデザインに変更しました。


【インタビュー】

横山さん:おいしものを作っている自信はありましたが、でもそれを欲しいと思う人は何人いるの?と考えると圧倒的に少ない。欲しいと言ってくれなかったんです。このブラッシュアップした商品は「買わせて」という声が多くなりました。

横山さん:すばらしいデザインになったし、鹿児島のにんにく・ピーナツを使っています。ブラッシュアップの前と後で、商品の動きは全然違います。製造量も増えました。

ニューヨークの日系スーパーで、荷ももうすぐ着くころです。

塚元さん:鹿児島を代表するおつまみにすること、「まずお客様手にとってもらう」ことを目標としました。そして何にでも使える商品はたくさんありますが、「おやつ」か「おつまみ」かで、売場も買ってくれる人も食べるシーンも違ってきます。「お酒のおつまみ」と設定することで、食べるシーンがわかるようになりました。

3:取組事例の紹介②~㈲菓子処渡辺(中種子町)

有限会社菓子処渡辺 専務取締役 渡辺脩一氏

【事例発表】
島外で販売できる商品と販路を確立したい

種子島から来ました有限会社菓子処渡辺の渡辺脩一です。弊社は創業して99年目。1926年、大正15年の創業です。和菓子製造に始まり、今は和菓子・洋菓子、そしてアイスクリームを製造・販売しています。

常温で賞味期限が長いアイテムが少ないこと、商品パッケージが伝わりづらいこと、九州圏には販路があるが首都圏・関西圏に販路がないことを課題として感じていました。

今回ブラッシュアップしたこの商品はネーミングが「1543」。種子島に鉄砲が伝わった年を表しています。歴史マニアには好評でしたが、島外の量販店・催事などではわかっていただけませんでした。

さつま芋シーズンの秋に向けた商談が進行中

「1543」だった商品名は「安納丸」になりました。安納芋の餡入りなので「安納」を。そして商品形状が丸いこと、そして種子島という離島で、物の輸送に必要な船の名前に「〇〇丸」が多いということで、「安納丸」となりました。

すでに成約もいただきましたが、さつま芋のお菓子のシーズンは秋。今年秋のフェアに向けて4月からの本格商談を進めていきます。


【インタビュー】

渡辺さん:JAL国内線ファーストクラスの機内食で採用されたこともあり、「種子島のお土産」以外の使われ方もありました。

渡辺さん:菓子問屋さんに扱っていただける商品が安納芋パイ・紫芋パイの2種だけでした。一部プリンなどは島外での取引も多少ありますが、冷蔵で日持ちがしない商品がほとんどです。

渡辺さん:そうですね、冷蔵だと賞味期限も短い。フェリーで出荷しても天候不良があると、店着しても賞味期限が1日短くなってしまいます。そこがネックでした。

渡辺さん:地元に戻って2年目ですが、そこから県外の販路拡大に向けて本格的に取り組み始めました。

4:取組事例の紹介③~㈱メセナ食彩センター(曽於市)

株式会社メセナ食彩センター 営業課 上村享平氏

【事例発表】
九州一の柚子生産量を誇る鹿児島の柚子専門会社

みなさん、こんにちは。株式会社メセナ食彩センターの上村享平です。メセナ食彩センターは曽於市の第3セクターとして柚子の加工品を作る、柚子一本の会社です。生産量は順調に伸びていて、九州で一番柚子が獲れるのが鹿児島県となっているので、ぜひ覚えて帰ってください。

柚子だけで30商品作っていて、今回は「ゆずノンオイル・ドレッシング」「プレミアムはちみつゆず」「ゆず胡椒(青・赤)」を中心に商談しました。特に注力したのは「ゆずノンオイル・ドレッシング」。昨年4月に全国ネットの情報番組で紹介され製造本数が過去最高となったので、いろんな方に紹介したいと考えました。

知られてない、販路がないという課題を抱える中で

しかし鹿児島は柚子の産地としての知名度が低いという課題があります。県外イベントでも、柚子と言えば「大分?」「宮崎?」と聞かれます。

また現在のところ県外には販路がほぼありません。鹿児島の柚子も知られていないし販路もない。さらに小ロット・手作業での製造が多いため、安い価格での提供がしにくく販路が広がりにくい問題もありました。

今回が初めての展示会。出展準備セミナーを聴いて、色々準備をましたが、会場を見て回ってみるとどこも華やかな装飾。その場でさらに陳列も工夫しました。

商談継続中のところはしっかりフォローしていきますが、ふだん出会えない方々とたくさんの人とお会いできたことは大きな成果でした。


【インタビュー】

上村さん:クローズド展示会の経験はあるのですが、今回のスーパーマーケット・トレードショーのようなオープン展示会は初めてでした。出展準備セミナーを聴いて、POPや商談資料を作成するなどの準備を進め、ある程度作成してからは専門家にも相談しました。

上村さん:ものすごい数の人がいることを考えると(もっと立ち寄ってほしかったなあ)というのが正直なところです。隣のブースにバイヤーさんが立ち寄ってるのを見ると(こちらにも来てくれないかなあ)なんて思ったり。

上村さん:今回が初出展で、そもそも県外に売っていく時の問屋さんの口座もほとんどないというのが現在の状態。今、いくつかの会社さんと口座開設を進めているところです。ちょっとずつその商流提案もできるようになっていきます。今後については県内はもちろん、県外も、そして世界、グローバルも目指しています。

上村さん:はい、だから輸出もがんばっていきたいと思っています。

5:取組事例の紹介④~㈲エスランドル(南九州市)

有限会社エスランドル 代表取締役 上釜勝氏

【事例発表】
「スライスらっきょう」の商品価値を伝える工夫

エスランドルは設立して21年。南九州市川辺に本社、隣の南さつま市加世田に圃場があります。一次産業の農産物生産、二次産業の加工、三次産業の販売まで手掛ける六次産業の認証を持っている会社です。

事業内容としては、農産物生産事業としてらっきょうとかぼちゃ、小売り事業では漬物・菓子・惣菜、業務用事業は野菜の乾燥パウダーやペースト、そして支給された原料を加工して戻すOEM事業があります。

今回はらっきょう商品を中心として紹介しました。一番売りたいのはありそうでない「スライスらっきょう」です。らっきょうはニッチな商品で、ヘビーユーザーさんが多くいらっしゃるのですが、年齢を重ねると特に歯ごたえが良い砂丘らっきょうは「噛み切れない」という声があったことで開発した商品です。

今回はこの「スライスらっきょう」を販売するにあたり、営業戦略や売り方など親身に相談にのっていただきました。「スライスらっきょう」と言うだけだと、「規格外のらっきょうを使っている」と誤解されてしまうことを心配していたので、その伝え方などを相談させてもらいました。

県事業で販路開拓の基本を教わって今がある

私は今年の県事業より前の食プロ、さらにその前の郷中塾から県の事業には参加させてもらっています。私たちは建築デザインという異業種から食品加工に入ったので、商品の価値化・ターゲット・商流などまったくわからなくて。

その頃から色々と指導していただいて、ヒントをもらって、今の販路につながっています。これら一連の県事業にはほんとうに感謝しかありません。

鹿児島大学と共同研究を6年行っています。らっきょうの成分に関する論文がなかったので、栄養価値・健康というテーマで研究しており、その観点からも販路を広げたいと考えています。


【インタビュー】

上釜さん:20年前、商工会さんを通じて東京の展示会に行きました。極利かぼちゃのフレークと長く扱っている白宝らっきょうを紹介しました。

上釜さん:撃沈です。一件も決まらなかった。バイヤーさんは立ち寄ってはくれましたが、商流がわかってないし、入数や最低ロットって何?という状態で。「入数も90個、100個」のように設定していました。問屋や帳合もわからないし、その掛け率もわからないし、しっちゃかめっちゃかでしたね。

上釜さん:20年前に初めて展示会に行って撃沈して。地元だけで販路を広げていましたがそれだけでは限界でした。数年たった頃、県の方から「郷中塾」を紹介されて参加。教えてもらって、ヒントにして、勉強してコツがつかめてきました。

上釜さん:そういうことです。今はこういう事業があってとても良い環境です。当時は何もなくて胃が痛かった…。

6:ウチの商品開発~ヒントとなるやり方

株式会社横福・横山さん:
店頭販売によく行くのですが、そこでお客様に「こういうのないの?」という声をもとに商品開発をしています。「にーぴなマニア」もSNSでお客様からいただいた「こんな商品が欲しい!にんにく屋さん作って!」というメッセージがきっかけでした。

株式会社メセナ食彩センター・上村さん:
弊社もイベント販売でのお客様の声、曽於市の市民の声をきっかけとして、工場長を中心に新商品開発に取り組んでいます。ただ最近、OEMやPB注文がありがたいことに増えていて、ここ2~3年、新商品を作れていません。ぜひ来年はブラッシュアップコースで参加したいと思っています。

有限会社エスランドル・上釜さん:
給与明細に同封する社内報にその月の話題を共有するほか、本や新聞を読むように奨励しています。月2回の土曜出勤日は、午前中に井戸端会議を行っており、その雑談の中で新商品のヒントが出てくることも。
弊社の「おかずらっきょう」(らっきょうの佃煮)は、らっきょうが苦手なスタッフが考えた商品。経営者としては出たアイデアはまずは一度やってみよう!と。商品になったらとても嬉しいようで、商品の取材も開発したそのスタッフが対応しています。私も展示会で何が何でも売らないと!という気持ちになりますね。

有限会社菓子処渡辺・渡辺さん:
今回の「安納丸」はもともとあったけど廃盤になっていた商品を復活させたもの。今後は新商品の予定はたくさんあって、常温で賞味期限が長い商品を増やしていきます。商品開発では種子島や鹿児島といった「強みを生かせる商品」であること、そしてお客様対象となる「女性の意見をちゃんと聞く」ことを重視しています。

かねだい食品株式会社・岩重さん:
今回できた新商品は「ほぐし 鯖こんぶ」。もともとは別商品をと考えていたのですが、ブラッシュアップコースの初回に商品ラインナップを紹介したところ、専門家から「昆布巻で何かできないか」と投げかけられました。
昆布巻は長年作っていた定番商品ですが、非常に手間がかかるため、対応が難しくなって製造量をシュリンクさせていたもの。
自分では想定していませんでしたが、その声をきっかけに考えてみると(瓶詰にしたら?)(ほぐしたら?)などのアイデアがわいてきて。展示会では反応も上々、バイヤーにも伝わりやすいこともわかりました。

販路開拓専門家・塚元さん:
「難しい」「これできない」などダメだ、ダメだとなりがちですが、それだけだと商品アイデアや発想はつぶれてしまいます。だからきちんとメモを残してほしいですね。アイデアはいくつあってもいい。
そして「発想」と「自社の強み」と「世の中の何の役に立つか」、3つの共通点を探ると一番良い新商品が出てくるのではないでしょうか。

7:商談成果サマリー

1)鹿児島商談会(1月開催、鹿児島市)

・8バイヤーと16事業者で72商談を実施。当日「取り扱い希望20件」でしたが、現状はさらに増えている。
・参加バイヤーからは「初めて商談する事業者もあり情報収集に役立った」「販売を検討できる商品が多かった」「商品がある程度ブラッシュアップされていたことが良かった」と好感触の声が届く一方、「鹿児島県にしかない強みをもっと活かせると良い」とのアドバイスも届いている。
・事業者からは「今後につながる商談があった(14/16社)」「バイヤーから今後のアドバイスがあった(11/16社)」「バイヤーと今後も継続的な商談ができそうだ(8/16社)」の感想だった。

2)スーパーマーケット・トレードショー(2月開催、幕張メッセ)

・来場者が7万人の大規模な展示会。ブース前に人混みができる混雑したタイミングも。
・事業者アンケートでは、展示会での名刺交換のうち自社判定で「1/3が高い成約確率」で、さらに「1/3強が継続案件」となっており、今後の成約がかなり期待できそうな結果。
・立ち寄りバイヤーとの良い商談や新規顧客との出会いもできており、「ブラッシュアップしてかなりの成果があがった」「手ごたえがあり成果が期待できる」「商談件数が去年よりはるかに多く、手ごたえを感じている」と手ごたえを感じている事業者さんが多い。
・一方、自社ブースについては半数が「狭い」という回答。「もっと事業者数を増やしてほしい」という声も。